


パドック※は競馬場でじっくり見るのが理想といわれるが、すべてのパドックを肉眼で見るのは不可能である。そこでパドック動画の出番だ。テレビ番組と違い、パドック動画なら気になる馬だけを繰り返し見ることも可能だ。

パドックは競馬予想の最終チェックの場であり、「歩様がよいな」「馬体が絞れて良くなったな」などは多くの競馬ファンが感じることだが、パドックでの馬の見方が分かり、馬券に活かすための知識が増せば、競馬の楽しみは倍増すると言っても過言ではない。
例えば、予想をした中で混戦のレースがあるとする。となれば、パドックで見た馬の調子や気配の良さで、自分の予想より評価を上げる馬がいた場合、積極的に馬券を買うことも可能だ。
2011年のオアシスSで、ナムラタイタンは4番人気だったが、この時はパドックで馬っ気※を出していたことで、ファンも半信半疑だった。私は、東京競馬場3Fのセンターコートで、映像を見ながらパドック解説をしていたが、
「メンバーの中に牝馬がいませんよね。その中でイレ込んでいる仕草は見せず、パドックの外側をグイグイ歩いていることからも、状態は間違いなくよいはずです」
と説明し、単勝勝負をした。結果、ハンデ戦らしくゴール前は混戦となったが、ナムラタイタンは接戦を制し、単勝900円の配当がついた。
馬っ気やフケは、一般的に割引材料とされる。フケにしても、牝馬同士のメンバーなら軽く尻尾※を振って牡馬を誘っても、その相手がいない訳だから、レースでは諦めて集中して走ることも多い。生理的に気持ちが高まっているからこそ、馬っ気やフケが見られるとも考えられ、その気持ちの高ぶりを逆に馬券へとつなげることができるようになる。
また、新馬戦は、後に重賞を勝つレベルの馬と、未勝利で終わってしまう馬が混じることも多く、パドックで馬の出世を見極める域に達すれば、これほど楽しいパドックはない。

レースに出走する1頭ずつをチェックするのがパドックだが、その際に、漠然と各出走馬を見て、どの馬がよく見えるかを見極めるのが「横の比較」だ。
横の比較をする際は、1頭1頭を細かくチェックした上で結論を出すのではなく、抽象的な表現で言えば「オーラを感じる馬」を探すことに主眼を置くべき。
映像だと1頭ずつチェックすることになるので、横の比較は難しい面もある。映像ではパドック1周、何気なく見た上で気になる馬がいた時の印象は大事にしよう。
横の比較をした後で、今度は1頭ずつ細かくチェックする。その馬を過去と比べ、今回良くなった面があるか、変わりないかなどを見ていくのが「縦の比較」。これができるようになるためには、各馬の特徴をしっかりと認識しておかなければならない。
JRAレーシングビュアーでは2012年9月22日以降の、過去のパドックを遡ってみることができるので、それまでのイメージが沸かない方でも比較しやすくなっている。
各馬の特徴を記憶し、好不調を見極める力を備えれば、馬券検討において最大の武器となるのだ。
横の比較にもつながることだが、2歳や3歳春までの期間で、馬体重より大きく見える馬は絶対に覚えておくべきだ。パドック解説などで「数字以上に大きく見える」と耳にすることもあると思うが、こういったタイプは時期がやってくると、若駒の頃に見たイメージ通りに馬体が成長し、大幅に馬体重が増えても太く見えず、逞(たくま)しく映る。いわゆる成長分と言われるが、古馬になっても急激に馬体が増えるタイプはGⅠを意識できる。
また、500キロを超える大型馬が数字よりコンパクトに見える馬も、調子のよい証拠と言われる。均整が取れ、バランス良く映ることが理由の一つだ。

馬体から見る距離適性は、一般的に
●胴長※…長距離
●寸詰まり※…短距離
とされる。これが完全に否定されることはないが、距離適性は本来、胴の長さだけで決まるものではなく、肩の角度と背中の長さも加味しなければならない。
背中とは、図3-1のように、「き甲(きこう)※」から腰の付け根まで、つまり鞍を置く部分のことを指す。胴とは、前脚の付け根から後ろ足の付け根までのことである。
背中を上辺、胴を下辺とすると、図3-1のように台形が現れる。図3-2のように背も胴も短い馬は、一般的に短距離で走る傾向にある。ただし、いわゆる「交突(こうとつ)」(前肢※と後肢をぶつけること)を起こしやすく、脚を痛める危険性もある。
同じ背が短い馬でも、図3-3の台形のように腹※が長めの馬は「長腹短背」と呼び、一般的に「走る馬」とされる。かつては、これこそが理想的な短距離馬だと言われてきた。
しかし、時代とともに理想的な馬体も変化していく。近年の日本におけるスピード競馬において、背中が短い馬は前半のダッシュ力に難があることが多い。したがって、最近では背中の短い馬は短距離ではなく中長距離でこそ走ると言われるようになってきている。
なお、図3-4のように背が反った馬(「背ったる」とも呼ぶ)は、首を上手く使えないため、肩が立っている馬と同じような走法、つまりピッチ走法※の馬が多い。その走りでゴールまで走り切るため、エネルギー効率が悪く、疲労しやすいとされ、あまり好まれない傾向にある。ただし、すべて走らないというわけではないのが馬体の難しさであろう。
たとえば、胴長の体型でも、肩の出※が窮屈で、歩いているときに歩幅が狭い馬がいるとする。「肩の出が窮屈な歩き」とは、簡単に言うと前肢がスムーズに前に出ない感じの歩き方。首をうまく使うことができず、前肢を前に出すときの可動域が狭い歩様を指す。
首の上げ下げと前肢の可動域は連動しており、肩が立っている馬はそもそも可動域が狭い馬がほとんど。だからこそ、イソイソと歩いているように映るし、走っている時もピッチ走法になる。「肩の出が窮屈」=肩が立っている馬に見られることから「ピッチ走法で走る」ことに加え、胴の長さを生かしてダッシュを利かせ、そのまま押し切ってしまうような短距離馬となることもある。
また、寸が詰まった体型でも、背中がある程度の長さを持ち、肩が寝ているタイプは長距離に対応できる。2009年天皇賞・春を制したマイネルキッツは、どちらかと言えば胴は短めの体型だが、肩が寝ているので前肢が伸び、一歩一歩の歩幅は広い。
肩の角度は、キ甲から胸前に直線を引き、45度(図3-5)がオールマイティなタイプだと思って頂けたらよい。
そこから60度へ向かえば肩が立っている状態で短距離向き(図2)、30度の方へ傾けば肩が寝ている状態で長距離向き(図3)と判断できる。
つまり、肩の角度に応じて、前肢の可動域が決まるのだ。
肩が立っている馬は、ピッチ走法になりやすく、短距離志向になり、肩が寝ている馬ならその逆で、フットワークの大きさにつながるので、距離は持つ可能性が高い。
背中の長さはかつて「短い馬がよい」と称されたこともあるが、背中の短い馬はお尻までの距離がある分、馬自身のトモへの伝わりが鈍くなるので、スタート直後はモタつく(ダッシュがつかない)可能性が高い。となれば、背中の短い馬は前半から急がせないよう走らせるのが理想であり、距離はあった方がよい。
距離適性を馬体を見て判断する際、胴の長さだけで決まるものではない、ということを改めて理解して頂きたい。

せわしなく動いて落ち着きがないのは単純にうるさいだけなのか、それともイレ込んでいる※のか…?この判断はプロでも見分けがつき辛い。その判断材料として、まずは「汗をかいているかどうか」を見て欲しい。
ポタポタと汗をかいているだけなら、新陳代謝がよいと見るべきだが、ゼッケンや股が擦れて白い泡状のものが出ていることがある。これは、余分な動きが擦れを生じさせて白い泡状になっているもので、俗に「二度汗」という(図4-1)。これが出ている場合はイレ込みと判断していい。装鞍所※からうるさく、発汗※の量も多いことが原因として挙げられる。
また、ゼッケンの下だけ妙に毛並みが悪い場合(図4-2)がある。これは、装鞍所でイレ込みがきつく、発汗をしていた際に汗を拭いた跡と考えられる。パドックに出てきた時にあまり汗をかいていない場合でも、うるさくて毛並みが悪い馬は、イレ込みと判断してよい。
また、イレ込みを抑える馬具※としてガムチェーン(図4-3)をパドックで着用している馬がいる。馬の急所のひとつである歯ぐきを鎖で締め付けて、大人しくするための馬具で、サイレンススズカも弥生賞後にガムチェーンを着用し、レース前のイレ込みを抑え込むようにしていた。
ガムチェーンをしていてもかなりうるさい面を見せている馬は、割り引いて考えた方がよい。
あとは生理的な面。「馬っ気※」は牡馬が興奮している仕草の1つで見た目には割引材料にしたくなるものである。しかし、競走馬の飼養(エサ)が昔と違っている影響もあり、馬っ気を出しても好結果を残しているケースは多く見受けられる。牝馬が前後にいて、明らかに集中力を欠いた形での馬っ気は評価を下げるべきだが、牝馬がいないのに馬っ気を出している馬は、あまり気にしなくてもよい。

一般的に、2桁の馬体重の増減があると、状態に疑問を感じた方がよいとされるが、これを一応の参考とした上で、パドックで最終的に見極めたい。
パドックにおいて、太めかどうかを判断するためには、腹回り、後ろから見た時の背中の肉の2カ所をよく見たい。腹回りは、ただ腹がボテっと太く映るだけでは、体型的なものがある可能性もあるので、正しい見方ではない。
チェックポイントは、腹帯※を中心に、その左右にゆるみが生じているかどうか。もしゆるみがあるなら、余分な肉がついている可能性を考えるべきだ。
わかりやすくたとえれば、人間で言うベルトを締めた時にきつい状態。このとき、ベルトの上下にゆるみが生まれるのはおわかりになるだろう。
また、馬を後ろから見たとき、余分な肉が背中についている状態を「背割れ」と言い、桃尻(桃のようなとがった尻)の形に映る。これは太めと判断した方がよい(図5-3 中央)。
馬体が寂しいと見るかどうかも、横と後ろから見て判断する。腹が明らかに巻き上がった状態だと、ひばらの上にある「腰角」がとがった状態となる。パドック解説で「ひばらが寂しい」と言う表現を聞いたことがあると思うが、まさにその状態。こういった馬は、後ろから見た時、お尻もとがって見える(図5-3 右)。
ガレ気味※に映る馬は、ひばらが寂しくなっていることでトモ※の踏み込みが浅く感じる上に後ろの方へ引きずっているような歩き方をする。この状態を「トモが流れる」と表現する。
腹回りは、牡馬に比べて牝馬の方が直線的なラインを描くので、どうしても牝馬の方が寂しく映るが、本当に馬体がガレているかどうかは、腹回りだけで決めるのは危険だ。映像だと、その微妙な変化をくみ取ることは難しいが、牡馬と牝馬で見方を変えなければならないことは覚えておいて頂きたい。

見た目と馬体の雰囲気はリンクしていると考えた方が良く、歩く姿が鈍重な場合は、重めと判断した方がよい。
曳(ひ)き手※が馬の首の辺りにいて馬を曳くのが理想的な位置(図6-1)だが、歩く姿が遅い馬は、曳き手に引っ張られ、首を投げ出すような歩き方をするので、曳き手は理想的な位置より前にいることになる(図6-2)。
また、曳き手が理想的な位置より若干でも後ろにいると、馬は自然と曳き手の方に顔を向ける(図6-3)。曳き手に甘えているように映り、実際にその可能性もあるが、馬にとっては「こっちを向け!」とされているように感じるケースもある。不自然な態勢にあるので、チャカチャカうるさくなる場合もあるので、曳き手の位置は要チェックだ。
さらに、馬がうるさく、発汗※も目立つ馬が極端に馬体重が減っている場合は、ガレ気味※に映ると見てよい。

馬の急所のひとつである歯ぐきを鎖で締め付けて、大人しくさせるための馬具※。パドックから本馬場へ入る前に外されるのが普通だが、ガムチェーンを着用したまま返し馬に行く馬もいる。その場合は、返し馬がスムーズに行えているかもチェックが必要。
覆面の目穴部分をネットで覆ったもの。本来は砂や泥が目にかかるのを妨げるための馬具だが、サングラスを掛けたように黒く映ることで慎重な動作を示すため、パドックでのイレ込み対策に着用されることも多い。
後方の視界を遮ることにより走ることに集中させるための馬具で、恐がりな馬には効果的。ブリンカーを装着してきた時(初ブリンカー、再ブリンカー)はもちろん、今まで装着していた馬が外してきた時も気性の成長が窺(うかが)えるだけに注目する必要がある。逃げ馬や、外枠などで揉まれずに運べそうな時、またゲートの悪い馬がブリンカーを着けることで好スタートを切るケースもあり、こういったパターンでのブリンカー着用は要チェックだ。
影や水溜りに驚くなど、下方の視野で臆病な面を見せる馬に対し、集中されるために着用するのが本来の目的とされる。ただ、馬は何とか下を見ようと首を伸ばすようになるので、頭の高い馬に着用することにより、走るフォームの矯正に使われる目的が多くなってきた。ブリンカーより即効性は薄いが、徐々に好結果が見込める可能性が高い。
頭絡※のハミを吊る部分にボアを着け、後方の視界を遮断し、レースに集中させるのが目的。オーストラリアンブリンカーとも言われる。ブリンカーより視野は広いので、ブリンカーだと視野が狭すぎて気にするタイプには効果的とされる。
ハミを越して舌を出している状態。正しいハミ受けができなくなる可能性もあるだけに気になる状況。舌をベロベロだしているので口の周りに白い泡がついている状況であれば、集中力を欠いているとも見受けられるので、あまり関心しない。
舌を越す癖のある馬に対し、包帯のような布やゴムバンドなどで縛ることにより、正しいハミ受けができるようにする効果がある。また、ノドに疾患のある馬の気道を確保するために舌を縛ることもある。
馬の急所である鼻を紐で縛り、極端にイレ込んでいる馬を制御するもので、実戦では外す。パドックで鼻を縛っている馬は、そこまでしなければ抑え切れないという表れでもあり、馬券的に考えれば大きな割引材料となる。

馬の歩く姿を見る際、一番注目すべきところはトモ※(後肢)の運びである。
馬は、構造的にトモの可動域(動かせる範囲)に乗じて前肢※が出る。前肢のさばきが硬く映る馬でも、トモの運びがしっかりしていれば問題ない。キャンターに行けばフットワークを大きく伸ばしているケースが大半だ。
前肢のさばきが硬い馬は、なめらかに前肢が出ず、すぐ前肢を着地させるような歩き方になる。人間でも、体が硬い人は相当、準備運動をした上でスポーツに挑むと思うが、さばきの硬い馬は返し馬を入念にするかどうか、注目した方がよい。
前肢のさばきが硬く映るのに、トモの運びがしっかりしている馬は本来、歩様のリズムがうまく取れていないはずなので、時折チャカつきながらリズムを取るなど、端から見ると集中して歩いていないように映る。
しかし、このようなタイプで堂々と歩いていれば、それがその馬のリズムで固まっており、全く問題はない。脚つきに問題がある馬や関節が硬い馬は、自分なりの前肢の出し方で徐々に固まってくる。ブエナビスタはこういったタイプの典型例だが、競走成績はご存知の通り。そういった歩きは、その馬の特徴であると、何戦かすれば覚えてくる。
ただし、トモの踏み込みが深く映る馬でも、蹴るときにしっかり後ろの方まで飛節※が伸びているかを見る必要がある。あくまで、トモの可動域が広いことが求められるポイントなのだ。
トモの運びを見る上で、飛節の位置が重要となる。尾の付け根から地面に向けて直線を下ろしたとき(図8-1)、そのラインに飛節があり、そのままのライン上に管※もあるのが、理想的な飛節の位置とされる。こういった馬は、トモの踏み込みも深く、それに乗じて蹴った時に飛節も伸びて可動域が広くなる傾向にある。
尾の付け根から地面に直線を下ろした時、それより後ろの位置に飛節がある馬は「飛節の折りが深い」状態とされる。これは、サンデーサイレンスがそういった体型で、サンデー系※の馬に見られる特徴だ。
以下の飛節の位置を良く見てほしい。
飛節の折りが深い馬は、自分の重心より後ろに後肢が位置しているので、蹴る指令を十分に伝えづらくなる。
しかし、サンデー系に関しては、本来欠点とされる飛節の折りの深さを全く気にせず、筋力が他の系統とは異なり非常に優れているので飛節がしっかりと伸び、逆に脚の長さを長所として一完歩が大きい。サンデーサイレンスが、馬を見る目を変えたとされるのは、こういった理由にある。
また、飛節の位置は直線のライン上にあっても、管が内に入る(飛節から球節のラインが前肢の方へ向いている)状態を「曲飛節」(図8-2)と言い、アグネスタキオン産駒(その系統)に見受けられる。トモの踏み込みは深く映るが、飛節が中に入っているので、蹴った時に飛節が思うように伸び切れず、全体の歩幅は狭く感じる傾向にあるが、タキオンの血を引く馬はほとんど気にしなくてよい。これもサンデー系の筋力の強さが欠点を補っていると考える方が得策だ。
トモや腰が甘い馬が歩くときにも「トモが流れる」と表現する。
腰がブレるのでトモの運びが後ろに引きずられているように見えるのである。トモが流れる馬は、前への推進力が乏しいので、正しいフォームで走るまでに時間が掛かり、スタートでダッシュがつかないケースがほとんどだ。
飛節の折りが深い馬のトモの運びと、トモが流れる馬の違いは、トモの可動域が明らかに違うので、多くの馬を見て感じ取って頂きたい。

牝馬の発情。パドックで尻尾※を軽く振ることにより、陰部をチラチラ見せて牡馬を誘う仕草を見せているとき(図9-1)は、確実ではないにせよその兆候が見られると考えてもよい。後ろに牡馬が歩いている時に馬っ気を出していれば、その牝馬がフケであることは容易に想像できるし、パドックの順番が変わっている時に、牝馬の中で軽く尻尾を振っている馬がいれば、その馬のフケを疑ってかかってもよい。フケの馬は、レース中にステッキを入れられると尻尾を強く振る。それだけ反抗しているので集中力は欠いており、全力疾走はなかなか難しい。もし、調教VTRで尻尾を振っている牝馬がいたら、その馬はフケの可能性が高い。
寒くなると体温を調整するために毛を伸ばす。これが冬毛で、パドックで各馬を見渡した中に冬毛が伸びている馬がいると、その馬は「毛ヅヤ※が今ひとつなので体調が…」とよく言われる。しかし、冬毛自体は哺乳類が持つ特性で、競走能力への影響は全くない。
特に、牝馬は母性本能などホルモンの関係で体温には敏感であり、牡馬以上に冬毛を伸ばす傾向にあるが、これも全く気にしなくてよい。逆に考えれば、冬場でも毛が短く、ピカピカの毛ヅヤの馬がいれば、体調の良さに太鼓判を押せるし、手入れがしっかりされていることで厩務員などとの信頼関係が生まれている可能性が高い。冬毛を割引材料と考えず、冬場でも毛ヅヤがよい馬をより強調する、といった判断が好ましい。

馬を見るようになっていくと、好きな体型などがはっきりしてくると思う。一般的に言われる「理想的な馬体」は、馬を見る上でもしっかり勉強しておく必要はあるが、それが100%正しい「理想的な馬体」とは言えないことも徐々にわかってくる。
というのも、馬も生き物であり、父系や母系による特徴の違いを理解するようになる。となれば、「馬をより深く追求したい!」と思えば、種牡馬の特徴をしっかり掴んだ上で馬体を見比べていけば、「少し線は細い体型だが、トニービンの系統だから問題ない」
「肩の出は窮屈に映るが、タイキシャトル産駒なら気にならない。トモの運びはしっかりしているので、自信を持って買おう」
などと感じていくことができる。
サンデーサイレンス産駒の後肢の特徴は、本来欠点とされる飛節の折りの深さを全く気にせず、筋力が他の系統とは異なり非常に優れているので飛節がしっかりと伸び、逆に脚の長さを長所として一完歩が大きい点である。
サンデーサイレンスが、馬を見る目を変えたとされるのは、こういった理由にある。
特にディープインパクトは、サンデーサイレンス産駒の中で数少ない、理想的な位置に飛節がある。だからこそ、小柄な馬体でも「飛ぶ」という表現をされていたようなダイナミックなフットワークを生み出すことができた。産駒もやはり、サンデー系ながら飛節は理想的な位置にある馬が多く、馬体面での欠点が少ない。歩いていて柔らかい馬も多く、バネを感じさせるので、やはり芝の瞬発力勝負に強い。
ディープインパクト同様、小柄なサンデーサイレンス産駒だが、小柄な馬体で現役時に活躍していた種牡馬の共通点は「丈夫な産駒が多い」こと。馬体重とは別に、全体に軽いイメージがあり、脚元への負担があまりない。したがって調教でも攻めることができ、鍛えて強くなるタイプを実現させている。サンデー系特有の激しい気性の中でも最たる馬だったことが、ムラっ気※が強い反面、オルフェーヴルやゴールドシップといった大物輩出の出現につながっている。産駒頭数が増え、育成レベルで扱いに慣れてきたこともあり、以前に比べれば牝馬でも好走する馬も増えてきた。パドックでうるさいのは、この馬の特徴と見るべきだ。
ステイゴールドと並び、大物産駒を出す可能性が高いサンデー系種牡馬。ネオユニヴァースも気性の激しいタイプが多く、特に牝馬の扱いは苦労すると言われる。父の馬体面での特徴は、マンハッタンカフェと並んで良く出ており、飛節の折りの深さはサンデー系種牡馬の中でも最たるものだ。馬を見る人間にとっても好き嫌いの激しい種牡馬で、パドックで極端にうるさい馬も多かったり、後肢の長さを生かすための柔軟さ(バネ)があるかを見極める必要があるものの、その判断は非常に難しい。とにかく数を見ることだ。
栗毛のサンデーサイレンスで、母の父であるロイヤルスキーが強く出た体型。シャープな体型のサンデーに対し、アグネスタキオンはロイヤルスキーが持つ大きなお尻と筋肉量の豊富さが特徴。8.「歩き方」を見分けるも参照して頂きたいが、サンデー系で飛節に特徴はあるものの、折りが深いというより、曲飛節なのがタキオン産駒に多く見られる。トモの踏み込みは深く映るが、蹴った時にしっかり飛節が伸びて可動域が広いかどうかを見極める必要がある。
サンデーサイレンス晩年の大物として、マイルから2000mでGⅠ5勝した。母の父がノーザンテーストで栗毛に出たこともあり、サンデー系にしては全体にボリューム感のある体型だったのは、馬体面で牝系が強く出た印象を受ける。若駒の頃は全体に緩く感じ、馬体の張りが今ひとつに映ることが多いが、レースを使うにつれ張りも出て体質も強化される。2歳時における出走延べ頭数が他の種牡馬を圧倒している点も、仕上がりの早さと丈夫さがウリと言える。現役時はヤンチャで、パドックではホライゾネットを着用し、ロングステッキ(長いムチ)を持つ人をそばにおいてイレ込み※を抑えていたが、産駒を見ると気難しさはあっても父ほどのうるささは見せず、大崩れのないタイプが目立つ。
キングマンボ~ミスタープロスペクターと遡る父系だが、ミスプロ系はお尻が大きめで丸みを帯びた体型が特徴で、パワーを必要とされるダート馬が多い。その中にあってキングカメハメハは、お尻は大きめでも脚長でスリムな体型の産駒を輩出している。サンデー系牝馬との配合で生まれる子供が多く、それが父とはタイプの違う体型に出ている印象も受けるが、裏を返せば牝系の良さを出している表れでもある。前肢※の出はあまりよく見せない傾向が強く、トモの運びに柔軟さがあるかをしっかりチェックしたい。
日本競馬の一時代を築いたテスコボーイから流れる父系の希少な血を引き継いでいるのがサクラバクシンオー。父のサクラユタカオーは強靭なバネを持ち、当時の東京芝中距離でレコードを出していたほど。その柔らかさは、筋肉量が多いバクシンオーの血を引く産駒にはあまり見られず、筋肉質なゆえに歩様は少しゴツゴツ(硬く)※映るため、トモの可動域は狭く感じる。お尻が大きく、筋肉の割れも立派に映るので、パドック初心者は迫力を感じるために良く見えるタイプの馬。短距離向きの馬を早く理解する上では、バクシンオーの血を引く馬を追い掛けるのも一つの手だ。
外国産馬として初めて日本ダービーに出走した歴史的な名馬。芝、ダートともに活躍したが、JCダートと武蔵野Sでの強さからダート馬のイメージが強く持たれている印象を受ける。父のフレンチデピュティは、日本でも種牡馬として確固たる地位を築いているが、フレンチデピュティは歩様が硬く(本来の歩幅より狭く感じる歩き方)、全体の歩幅も狭く感じる割にその産駒は芝での活躍馬が多い。牝系の良さを引き出し、自身の硬さを和らげているのだろう。クロフネも、馬体の迫力は父譲りだが、歩いている姿に硬さは見られず、イメージよりも産駒は、ダート以上に芝での活躍が見受けられる。
右後肢だけ外に振って着地させるような、こねる歩き方をするのがサウスヴィグラスの特徴で、コーナーが4つの競馬より、2つ(ワンターン)の競馬が得意だったのは、その影響もあったように映る。しかし、産駒にはその影響は伝わっていないので、オールマイティな活躍を示している。エンドスウィープ~フォーティナイナー~ミスプロとつながる父系で、お尻が大きいミスプロ系の特徴をしっかり受け継いでいる。いかにもダート馬、という馬体の雰囲気を醸し出し、馬体の各パーツはボリューム感がある。しかし、歩様はダート馬らしい硬さはあまり見られず、柔軟さも兼ね備えている。腹袋の大きい馬も多いが、それが体型なのか余裕のある体つきかは腹帯※を境にした腹目のラインや、背割れなどからしっかり判断したい。エンドスウィープ系は気性の難しいタイプが多いが、サウスヴィグラス産駒は、パドックでうるさいタイプも少ないので、気性面での心配はあまりしなくても良さそうだ。
サンデーサイレンス、ブライアンズタイムと日本の競馬を変えた種牡馬を輩出しているヘイルトゥリーズン系。それらとはまたタイプが違うクリスエス産駒だが、頭が高めで飛節が直飛に出ているのが馬体の特徴と言える。飛節の折りが深い馬より理想的な位置に近い直飛の馬は、飛節をしっかり伸ばすことができる点で長所と言える面はあるが、配合的に可能なサンデー系※牝馬との間に生まれた産駒は、飛節の位置にばらつきがある。可動域が狭く感じる馬は、瞬発力に乏しく出るので、パドックではトモの運びを要チェックだ。また、シンボリクリスエス産駒は耳の大きい馬が多いのも特徴の1つで、情報収集力がある分、過度に反応するケースもあるので、パドックや返し馬において落ち着きの度合いを見る必要もある。