夏・馬産地だより 秋を待つ注目馬たち

ペルーサ

サラブレッドは人間が創りあげた最高の芸術作品であり、競馬はそのサラブレッドにかかわる人間の美学だ。配合、育成、調教。そしてレース。そこに、こだわりがあり、信念があるから競馬は美しく、人の心を打つ。

2010年春。ペルーサが歩んだ道は陣営の信念だった。新馬戦のあとは自己条件の平場戦、そして若葉S、青葉賞。いわゆる王道ではなく、皐月賞を無視して、ダービーへといたる道のりだ。かつて、シンボリルドルフが朝日杯3歳Sを無視して三冠馬になったようにペルーサもまた、新しい道を創ろうとした。

若馬に精神的なダメージを植えつけないように忙しい競馬や多頭数競馬を嫌い、余力を残したまま勝つことで馬を磨き上げていく。2009年のサトノエンペラー、2008年のクリスタルウイング、2006年のマチカネゲンジ。さかのぼれば、シェルゲームやゼンノロブロイ、シンボリクリスエス。青葉賞にいたるまでのローテーションに多少の違いはあれ、みんなそうだ。

しかし、この道なき道を歩むものは、産みの苦しみを味わっている。ペルーサもまた、青葉賞では驚くべきパフォーマンスを発揮したもののダービーでは発馬のタイミングがあわずに6着と敗れてしまった。

勝てば完璧だったが、大一番で印象に残るパフォーマンスを見せてくれるのもまた“アルゼンチンスター”ディエゴ・マラドーナのニックネームをもらった馬らしいといえば、らしい。

そのペルーサはダービーのあと、茨城県のミホ牧場で一息をいれ、6月の末頃に北海道のファンタストクラブへと移動した。同クラブの石坂光幸さんは「短期放牧をはさんでいたから、輸送疲れもなく、移動してすぐにキャンターを乗り始めることができました」と好調をアピールする。春シーズンは本気で走らないようなところがあったというだけに「馬が、走ることを楽しいと感じてくれるような、そんな状態で送り出したい」という。

そして次のステージにむけて、7月末から水、土の週2回、15−15程度で時計を出して秋に備えている。「さすがに一流馬だと思う。オンとオフの切り替えが上手で、馬房で寝転んでいるときと馬場に出たときでは馬の雰囲気が全然違うものね」と感心する。

「とくに併せたら目の色が変わって、顔つきもガラッと変わった」という。8月中旬現在で馬体重は526キロ前後。「このあと、社台ファーム、函館競馬場を経て美浦に移動する予定ですので、輸送を考慮すればちょうどいいと思います。ここ(ファンタストクラブ)ではこれ以上速いところをやる必要はなく、良い状態で送り出せそうです」と満足そう。その表情からも充実感が感じられる。

サッカーの申し子といわれたD.マラドーナもまたW杯スペイン大会での屈辱があってメキシコ大会での優勝につながった。ペルーサもまた、ダービーでの敗戦が馬をひとまわり大きく成長させてくれたことだろう。

秋は毎日王冠からの始動が有力だ。「GI級の馬であることは間違いないと思うし、大きな勲章を取って欲しいね」とエールが送られている。

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