夏・馬産地だより 秋を待つ注目馬たち

トゥザグローリー

名伯楽が背水の陣で挑んだダービーだった。

名牝トゥザヴィクトリーとキングカメハメハとの間に生まれた珠玉の良血トゥザグローリー。500キロを優に超える馬体から繰り出されるスピードとパワーは他を圧していたが、そのハイエンドのエンジンを支えるボディは繊細なサラブレッドそのものだった。

2歳9月に一度は池江泰郎厩舎に入厩を果たしたものの、脚元がパンとせずに一度はデビューが白紙に。戻ってきたのは翌年の2月中旬だった。

そこからダービーに向けて、ただの一度も取りこぼせない戦いが始まった。デビューは、翌週には皐月賞TRスプリングSが行われようという3月14日。542キロの体は、生まれながらの体格を割り引いても、まだ余裕があった。それでも最後は33秒8の末脚で快勝した。2戦目は桜花賞の前週。ここも無事に通過。そして青葉賞。同じように最小限のキャリアで、しかし1戦1戦余裕を持たせながらここまで駒を進めてきたペルーサには突き放されたもののダービーの出走を確約する2着を確保した。「何とかダービーに出走させたい」というトゥザグローリーの春は、事実上、そこで終わった。

競馬だから、もちろん勝つにこしたことはない。勝つために出走させる。しかし、早い段階から勝つことを目的に調整されてきた馬と、出走することを当面の目標にしてきた馬では明らかに差が生じてしまう。そんなことを感じさせる春だった。

不完全燃焼のラジオNIKKEI賞のあと、トゥザグローリーは福島競馬場から山元トレセンを経て、生まれ故郷のノーザンファームへと放牧に出された。「馬体が傷んでいるわけではなく、芯から疲れている様子もないのですが、ダービーまで一生懸命に走った馬ですから、見えない疲れがあったのかもしれませんね」とノーザンファーム早来の横手祐二育成調教厩舎長。「楽をさせると体が増えてしまう」タイプでもあり、移動後は完全に緩ませることなく、同ファームの屋内坂路で調整されている。

この日は集団から離れ、単走で坂路を駆け上がってきた。8月は屋内の周回コースで軽めのキャンターを乗られたあと、屋内坂路でハロン18秒程度を目安に乗り込まれている。

最後まで集中力を切らすことなく、正確なリズムを刻んでいる。「単走だとうるさいところも見せるんですけどね。大人になってきたのかもしれないですね」と手応えをつかんでいる様子だ。

元々、秋以降にと期待されていた1頭だ。「ここでは、速い時計を出すよりも息を整えながら、実戦で戦える心臓を作ることに重点を置いています。運動量は高い水準をキープしていますし、最近では馬体の充実度も目立ってきました」という。

その後、8月23日にノーザンファームを出発し、山元トレセン、グリーンウッドを経て27日、栗東の池江泰郎厩舎へと戻ってきた。

当面は、具体的な目標を決めることなく、馬本意に調整を行っていくというが、次に競馬場でトゥザグローリーに会うときは、心身共に大人になった姿を見せてくれるに違いない。

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