夏・馬産地だより 秋を待つ注目馬たち

フォゲッタブル

生まれたとき、いや生まれる前から、多くの期待を背負い、そして注目を集めてきた。それは「血の宿命」と呼ぶにふさわしいものだ。

父はダンスインザダーク。この父もまた活躍を義務付けられた良血馬だった。半兄にはナリタブライアン世代のダービー2着、菊花賞3着馬エアダブリンがいて、1歳違いの全姉にはオークス馬で菊花賞1番人気のダンスパートナーがいた。順調さを欠いたダービーはフサイチコンコルドの後塵を拝したが、秋の菊花賞を制して血統に華を添えた。

母エアグルーヴは、ダンスインザダークと同じ年に生まれたオークス馬。4歳時の天皇賞(秋)では同世代の2歳王者バブルガムフェローを下して、同年の年度代表馬にもなった名牝だ。繁殖牝馬としてもエリザベス女王杯2連覇のアドマイヤグルーヴや4億9000万円の落札価格で話題になったザサンデーフサイチ、GIレースでも話題になったポルトフィーノなどを送り出している。

フォゲッタブルもまた、2007年の当歳市場において2億4500万円で取引された高額馬だ。金子真人ホールディングス(株)、池江泰郎厩舎、そして市川明彦厩務員。“チーム・ディープインパクト”の管理下におかれ、否が応にも注目度は高い。「忘れがちな」とは何とも皮肉なネーミングだ。

しかし、そうした血の宿命を背負ったフォゲッタブルもまた、生ある1頭のサラブレッドだ。3歳の春シーズンは弱いところがあって思うような活躍ができなかった。ダービーを横目で見るしかなかった3歳7月。古馬相手の最下級条件戦からの再出発となったが、秋には菊花賞の出走メンバーにその名を連ね、そして勝ち馬をハナ差まで追い詰めた。ステイヤーズS、ダイヤモンドSを制して挑んだ天皇賞・春は1番人気での出走だった。

「ずっと厳しい競馬が続いていましたからね。疲れもあったんだと思います。1年前は500万下条件馬だった馬が天皇賞(春)では1番人気ですからね。馬を褒めてください」というのはノーザンファーム早来の横手裕二厩舎長だ。「宝塚記念のあと、山元トレセンを経由してここに戻ってきました。馬体が減っていたので、まずは体重を戻しながら、疲れを取るようにしました」という。

今では馬体も回復し、動きにも鋭さが戻りつつある。「ここに来た頃よりも気持ちが前向きになりました。調教でも引っかかるほどの動きを見せています。まだ、入厩までには時間もあるので、焦らずに進めていきたいですね」とマイペース宣言だ。あふれんばかりの素質は、まさに開花寸前。復帰戦は10月10日に行われる京都大賞典が有力とのことだが、秋には一段とたくましくなったフォゲッタブルがターフを沸かせてくれるはずだ。

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