夏・馬産地だより 秋を待つ注目馬たち

ロジユニヴァース

数奇な運命をたどっている馬だ。

父はサンデーサイレンス直仔の2冠馬。名馬がキラ星のごとくに居並ぶ母系で、曽祖母は80年代の欧州を代表する名マイラーだった。母の妹弟にはモンローブロンドやノットアローンがいる良血馬。デビューするや3つの重賞を含む無敗の4連勝を記録し、ダービーを圧勝した。

一見するとエリート中のエリートのようにも見えるが、彼が歩んできた道は決して平坦なものではない。母系をさかのぼると英国のハーフブレッドにさかのぼる血統。生まれたときから前脚が外向きし、2歳の春まで行き先が決まらず、一度は道営ホッカイドウ競馬からのデビューも検討されたそうだ。関東馬でありながらも阪神競馬場でデビューしたのもそんなことが影響しているという。デビュー後も、一度レースを使うたびに牧場での短期放牧をはさんできた。すべて「馬のため」と言ってしまえばそれまでだが、そうした陣営に支えられながら、自らの運命を切り拓いてきた。それがロジユニヴァースだと思う。

朝6時。ロジユニヴァースがノーザンファーム早来の屋内坂路を1頭だけで勢いよく駆け上がってきた。まっすぐに、そして力強く。電光掲示板が映し出す数字はハロン16秒台を刻んでいるが、馬はケロリとしている。「調教過程としては昨年より順調に来ています。昨年よりは間違いなく体力がついたような気がします」と林宏樹厩舎長が慎重に言葉を選びながら答えてくれた。サラブレッドの調教は小さなことの積み重ねだ。ダービーのあとは決して満足できる成績でないだけに、“復権”のために、ここまで慎重にひとつずつ積み上げてきた。

「この馬は、気合いの乗りがひとつのバロメーターなのですが、今は精神面がすごく良いですね。体調のよさを感じます」という。現在の馬体重は520キロ。大きく減らした宝塚記念からだいぶ戻してきた。「馬体重以上に大きく見せますね。札幌競馬場まで運んで、ちょうど良いんじゃないかな」と林さん。7日には札幌競馬場に移動して、22日の札幌記念を目指すという。

ロジユニヴァースにとって札幌競馬場参戦は、天才少年が、そのヴェールを脱いだ一昨年の札幌2歳S以来2年ぶり。挫折を知った天才ほど怖いものはない。復活の狼煙をあげるにはこれ以上ない舞台設定で、雪辱を誓う。

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