夏・馬産地だより 秋を待つ注目馬たち

ナムラクレセント

主役を引き立てるための名バイプレイヤーでもなければ、渋太さを発揮するいぶき銀でもない。まして、あふれる才能が開花寸前の未完の大器でもない。

敢えて例えるなら名刀を隠し持った気まぐれな刺客といった風情だ。ナムラクレセントは、昨年の阿賀野川特別ではフォゲッタブルに5.5キロのハンデ差を与えて5馬身差圧勝。さらに準オープン特別の西宮Sでもトップハンデを背負ってスマートギア、メイショウベルーガを一蹴した。アンドロメダSではトーセンジョーダン、ゴールデンダリアらを切り捨てた。思い返せば、一昨年の菊花賞では直線一度は先頭に立ち、場内を大いに沸かせた馬だ。その後、阪神大賞典では直線で差を詰めて3着、毎日王冠は先行して4着と逃げ差し自在の変幻戦法で重賞戦線を沸かせている。

父ヤマニンセラフィム、母サクラコミナ(その父サクラショウリ)。父系をさかのぼればサンデーサイレンス。母系をたどれば名門スワンズウッドグローヴ系だが、決して派手な良血ではない。しかし、その血統の奥底には日本の競馬史をつくった底力が宿っている。
今年に入ってからは燃えすぎる気性が災いして、やや期待はずれのレースが続いているが、天皇賞(春)では見せ場をつくった。秋にむけて目が離せない1頭だ。

宝塚記念では逃げて場内を沸かせたものの9着。勝ち馬からコンマ8秒ほどだから着順ほど大きく負けていないが、レース後は愛知県イクタトレーニングファームで調整中されている。

 「宝塚記念のあと、7月1日にこちらに移動してきました」と同トレーニングファームの稲本さん。「今回はリフレッシュが目的ですから、のんびり過ごしています」と現状を報告してくれた。「若いうちから知っている馬ですけど、この春は気性の強さが出過ぎちゃった感じなので精神的なケアをしたい」という。


「引き運動だけだと牝馬を気にしたりするので、現在は人間がまたがって常歩のみのメニューです。鞍を置くときには反抗したのだけど、歩くだけだとわかったら、さっさと出て行くんだよね」というから憎めない。「8月に入ったら当ファームの400mダートコースや650mウッドチップの坂路コースなどを使って少しづつ進めていきますが、どのくらい落ち着きを取り戻せているかがポイントになりそうです」という。そんな人間の心配を知ってか知らずか、ナムラクレセントは引き手のリードチェーンを口で遊びながら、幸せそうな顔をしている。

 

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