夏・馬産地だより 秋を待つ注目馬たち

マイネルキッツ

「この道より我を生かす道なし。この道を歩く」とは小説家の武者小路実篤が残した言葉だがマイネルキッツ(牡7歳、父チーフベアハート)が歩こうとするところも「この道より我を生かす道なし」なのかもしれない。この秋はオーストラリア競馬最大の祭典「メルボルンC」への挑戦を表明した。

デビュー戦から終始一貫して長い距離ばかりを使われてきた。「生まれたときは骨格のしっかりした馬でした(牧場スタッフ)」という証言もあるが、「キッツ=小鹿」と名付けられたくらいだから、若いうちはヒョロっとしていたのかもしれない。頭角を現してきたのは4歳秋。追い込んで届かず、前へいけば末脚が鈍った同馬に力強さが加わってきた。大事に間隔を空けて使われていたが、最下級条件戦からあっという間にオープンまで駆け上がり、重賞初挑戦となった5歳春のエプソムCでも勝ち馬からコンマ2秒差まで押し上げている。しかし、さすがにオープンの壁は厚く七夕賞3着、新潟記念2着と好走するものの勝ちきれない。同年秋の福島記念も2着。「重賞ではちょっと足りないのかな」という評価が定着した頃、実に29年ぶりとなる重賞未勝利馬の天皇賞(春)制覇という偉業を成し遂げた。

  「長い距離があっていると思いました」という松岡騎手。2連覇を狙った今春の天皇賞はジャガーメイルの強襲にコンマ1秒ほど屈したが4角先頭から3着馬に5馬身の差をつけた。前年の天皇賞(春)制覇がフロックでないことを強く印象付け、生粋のステイヤーであることをも証明した。
  天皇賞(春)のあとは、ファン投票8位の宝塚記念には見向きもせずに秋に備えた。ビッグレッドファーム明和で心身のリフレッシュをはかり、そして6月11日に真歌トレーニングパークへ。同パークの全長1500mの坂路で乗り込まれた。

「昔から誰でも乗れたほど、穏やかな性格をしていますが、ちょっと気分屋のところがあって、扱う人間を困らせたりもします。気が悪いというのではなく、悪戯好きなんですね」と同ファームの小林司さん。「牧場にいた頃はあまり目立たない馬でしたが、安定感のある走りをしていました。この夏も順調そのものです。大きなタイトルを取った馬に無事是名馬というのは失礼かもしれませんが、健康な馬です」と全幅の信頼を寄せる。

そして、当面の目標である札幌記念出走を目指して28日、同競馬場へ移動した。懸念された検疫問題もクリアできるとのことで、この秋は世界を舞台に戦う同馬が見られそうだ。

 

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