夏・馬産地だより 秋を待つ注目馬たち

アグネスワルツ

雨の東京競馬場、やや重馬場。馬群が、円舞曲と同じ4分の3拍子のリズムを刻みながら進んでいく。先頭のニーマルオトメを2馬身差で追うアグネスワルツ。3番手をいくショウリュウムーンらはさらに5〜6馬身後方で前を伺う。 ニーマルオトメが刻む13秒台のスローワルツが、残り3ハロンの標識を過ぎたあたりから一気に激しさを増した。4コーナー手前で「黄、赤袖、水色二本輪」の勝負服が先頭に踊り出ると、場内のボルテージが一気にあがった。内にもぐりこんだアプリコットフィズは脚色に余裕がない。外からはサンテミリオン、そしてアパパネ。残り200mあたりで外の2頭が轡を並べて先頭に踊り出るが、アグネスワルツのリズムは正確だ。ニーマルオトメが刻んだ1600mの通過ラップは1分40秒5だったが、ラスト3ハロンは12秒0〜11秒5〜12秒4。歴史に残る名勝負を陰で演出したのは間違いなくアグネスワルツだった。

デビューのダート戦は惨敗したが、華麗なステップを踏むアグネスワルツにダート競馬は似合わない。芝1600mの未勝利戦をレコード勝ちして、続く白菊賞も楽な逃げ切り勝ち。能力の高さは誰もが認めるところだったが、2歳時に右前肢球節部の剥離骨折が判明して桜花賞は断念せざるを得なかった。春のクラシックで最も重要な“順調度”。それを失いながらもアグネスワルツは府中の直線を華麗に舞った。

「骨折明けということを考えれば、オークスは本当によく走ってくれました」と社台ファームの斎藤孝調教主任が本馬を褒めた。「レースのあと、すぐに戻ってきましたが、この春は2回しか使ってませんからね。とくに疲れていたような印象はありませんでしたよ。だから、すぐに乗り込みをはじめました」と頼もしそうだ。そんな斎藤主任の言葉を裏付けるように社台ファームの直線1000mのダート坂路コースを単走で軽快なフットワークを披露してくれた。「この馬のお母さんもそうだったんですが、いつも一生懸命に走る気の良い馬ですから、仕上げに手間取ることはないですね」と全幅の信頼を寄せる。

「夏の休養というよりも、夏合宿ですね」と冗談交じりにいう。オークスの舞台に5頭を送り出した社台ファーム。この秋はさらにパワーアップした牝馬勢で競馬を盛り上げてくれそうだ。

前のページに戻る

Copyright c 2008 JRA SYSTEM SERVICE CO.,LTD All rights reserved.