夏・馬産地だより 秋を待つ注目馬たち

エイシンフラッシュ

息を潜め、じっと獲物を待っていたかのうようにエイシンフラッシュがローズキングダムに襲いかかる。インコースではヴィクトワールピサが皐月賞馬のプライドにかけてトゥザグローリーとゲシュタルトの間を割ってきたが、このとき、すでに態勢は決していた。 エイシンフラッシュが2007年生まれの7611頭の頂点にたった瞬間だった。

「もっとも幸運な馬が勝つ」などと言われているが、運を味方にできる馬は強い。エイシンフラッシュは、出走を予定していた若葉Sを使えなかったことで、皐月賞をダービーのステップレースにした。逆にヴィクトワールピサは、5連勝で皐月賞を勝ったために、馬が長期間の緊張状態を強いられることになった。第77回日本ダービーで、結果的に勝負の分岐点となった向こう正面。ピタリと折り合うエイシンフラッシュの前で折り合いに苦しむヴィクトワールピサの姿はあまりに対照的だった。加えるならば、ダービーへのローテーションが多様化したために皐月賞の上位組が人気の盲点になったこともエイシンフラッシュにとっては幸いだった。 あらゆる幸運がエイシンフラッシュの頭上から降り注ぎ、この馬にはそれを受け止める強さがあった。 カナダの実業家キングスレイ・ウォードの言葉に「人は失敗するたびに何かを学ぶ」というのがあるが、今回のダービーでは、3度の敗戦を含めた6戦のキャリアすべてを糧としたエイシンフラッシュに一日の長があったということだ。

そのエイシンフラッシュはダービーのあと、生まれ故郷の社台ファームで調整されている。「普段の稽古では誰でも乗れるし、誰でも扱える、そんな馬です。ある意味では競走馬としては理想的だと思っています」というのは同ファームの長浜卓也さんだ。そんなエイシンフラッシュは、ウォーキングマシンで体をほぐしたあと、直線ダート1000mの坂路コースを乗り込まれている。「このダートコースは体全体を使わないと走れないんです。オーバーワークにならないように気をつけながら、秋の“王道”を目指します」と東礼治郎調教主任が現状を報告してくれた。坂路では、砂厚20センチの深い砂を蹴散らしながら力強いフットワークを見せてくれている。

まだキャリア7戦のダービー馬。「ダービーを勝ったことはもちろん嬉しいですけど、ダービーであの馬の競走馬人生が終わりじゃない。ダービーというレースを経験して、さらに強さを増したエイシンフラッシュを見て欲しいです」と意欲を見せている。

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