• ■タイム編

    1 タイムランクはどのように算出しているのか

    競馬は勝ちタイムを競うものではありません。しかし、競走馬の能力をはかる材料として、走破タイムは非常に重要な役割を果たしていることも事実です。まだキャリアが浅い若駒であっても、走破タイムから次走での勝算や将来性などをうかがい知ることができるのです。

    ■表1 勝ちタイムと補正タイムのサンプル

    馬名 場所 勝ちタイム 補正
    東京芝1600m 1分35秒5 100
    京都芝1600m 1分35秒6 105

    ここでは競馬ソフト「TARGET frontier JV」の(後述)補正タイムを活用します。例えば、Aという馬が東京芝1600mの新馬戦を1分35秒5のタイムで勝利し、補正タイムが100。Bという馬が京都芝1600mの新馬戦を1分35秒6のタイムで勝利し、補正タイムが105と出たとしましょう(表1参照)。この補正タイムをタイムランクに変換し、10段階に分類します(表2参照)。すると、Aという馬は★5、Bという馬は★8の評価となります。★の数が多い方が優秀と定義しています。

    ■表2 勝ち上がり2歳・3歳馬(条件戦)のタイムランク表

    タイムランク 補正タイム・芝 補正タイム・ダート
    ★10 108以上 113以上
    ★9 106〜107 111〜112
    ★8 104〜105 109〜110
    ★7 102〜103 107〜108
    ★6 101 106
    ★5 100 105
    ★4 99 104
    ★3 97〜98 102〜103
    ★2 96 101
    ★1 95以下 100以下

    全く別の条件で走った両馬ですが、このような能力比較が可能となります。勝ちタイムはAの方が速いですが、Bの勝ちタイムの方が、価値が断然高いと判断できるので。仮にこの両馬が次走、500万クラスのレースで戦うことになったら、Bの方が先着する可能性が高いと言えます。

    2 TARGET frontier JVの補正タイムとは何か

    TARGET frontier JVの補正タイムとは、基準タイム(ソフト作者が設定)を基にした、走破時計の相対値です。わかりやすく述べると、テストの偏差値のようなものです。走破タイムが別の数値に変換され、その平均的レベルの数値は概ね100前後となります。基準タイムはクラスや距離によって設定されており、実際の勝ちタイムが、そのクラスにおいてどれぐらいのレベルにあったか、ということがわかるのです。さらに詳しく知りたい方は、TARGET frontier JVのHPなどをご覧下さい。

    2歳・3歳の新馬・未勝利戦(芝)においては、補正タイム100が水準的な評価と考えられます。それよりも高い数値ならば走破時計が優秀で、低い数値ならば勝ちタイムは平凡だったと判断することができます。「TARGET frontier JV」の補正タイムをそのまま見ても十分に参考になるのですが、ここではタイムランクとして10段階(クラスに応じて★・☆・*を使用)に分類を行います。

    なぜこのような分類するかというと、クラスによって事情が異なるためです。補正タイム算出の際は、すでにクラスや距離に応じて補正が行われていますが、オープン特別や重賞では水準と考えられる数値が100よりも低く出てしまうことが多いからです。したがって、500万クラス以上のレースでは、表2で示したものとは異なる基準でタイムランクを算出しています。

    3 新潟2歳Sに見るタイムランクと能力

    ここで、直近10年の新潟2歳S優勝馬の補正タイムを見てみましょう(表3参照)。100以上をマークしている馬は1頭もいません。しかし、全馬の勝ち時計が平凡だったわけではなく、水準の値が元々低いためにこのような結果となります。同レースでの水準値は93あたりと考え、タイムランクを出す必要があります。

    ■表3 新潟2歳S優勝馬の補正タイムとタイムランク

    優勝馬 補正 タイムランク
    15年 ロードクエスト 97 *8
    14年 ミュゼスルタン 93 *5
    13年 ハープスター 97 *8
    12年 ザラストロ 91 *3
    11年 モンストール 96 *7
    10年 マイネイサベル 91 *3
    09年 シンメイフジ 92 *4
    08年 セイウンワンダー 91 *3
    07年 エフティマイア 91 *3
    06年 ゴールドアグリ 93 *5

    すると、先日新潟2歳Sを勝利したロードクエストが補正97でタイムランクは*8。勝ちっぷりが示す通り、06年以降の新潟2歳Sではトップクラスのパフォーマンスであったことがわかります。13年優勝のハープスターと同等の価値であると言っていいでしょう。無論、新潟2歳Sのタイムランクが、今後のすべてを決定づけるものではありません。07年優勝のエフティマイアや08年優勝のセイウンワンダーはタイムランクが低かったものの、その後G1で活躍しました。

    なお、タイムランクに使用する星印は便宜上、クラスによって異なるものを使用します。★は新馬・未勝利、☆は500万クラス、*はオープン特別・重賞となります。すべてのクラスにおいて水準のタイムランクは5としますが、あくまでもそのクラス内での評価となります。したがって、新馬戦で★8を出した馬と、重賞で*3を出した馬を比較し、前者が強いまたは後者が弱いという意味にはなりません。ご注意下さい。

  • ■将来性編

    1 将来性はどのように出しているか

    タイムランクと同様、★の数で10段階に分けて評価をしています。★5を平均的な位置として、それよりも★の数が多ければ将来がより有望と定義しています。ただ、将来性の判断は非常に難しいものです。タイムランクの時のような客観的な指標があるわけではありません。タイムランクをベースに、血統や実際の馬っぷり、走り姿なども加味し、総合的に考えて10段階の評価を行います。また、人によって受ける印象や考え方も違うはずです。そこが競馬の難しいところであり、面白い面でもあります。あくまでも一つの見方として、参考にしていただければ幸いです。

    2 将来性とタイムランクとの関係は?

    15年春、牡馬クラシック二冠を制したドゥラメンテを例に取り上げてみましょう。同馬はデビュー戦こそ2着に敗れましたが、2戦目のデビュー戦を6馬身差で圧勝。この時の補正タイムがなんと110でした。これは破格と言える数値で、タイムランク★10に相当するものでした。この時点でドゥラメンテという馬が、タダモノではないことがわかります。次走セントポーリア賞も楽勝となったのは当然。なおかつ同レースの補正タイムは105。またもや素晴らしい好時計での勝利であり、クラシック戦線でも通用すると、期待が膨らみました。このように、条件戦のタイムランクからでも十分に将来性をうかがい知ることができるのです。

    3 血統から見る将来性

    ■表4 15年日本ダービー出走馬の父とその系統

    系統
    ディープインパクト 4 ヘイロー
    ブラックタイド 3 ヘイロー
    キングカメハメハ 3 ミスタープロスペクター
    ゼンノロブロイ 2 ヘイロー
    スクリーンヒーロー 2 ロベルト
    ダイワメジャー 1 ヘイロー
    ハーツクライ 1 ヘイロー
    ハイアーゲーム 1 ヘイロー
    Marju 1 ノーザンダンサー

    ドゥラメンテが制した15年の日本ダービーを例に考えてみましょう。同レースに出走していた18頭の父の内訳(表4参照)を見ると、ディープインパクト産駒4頭を筆頭に、大半がヘイロー系であることがわかります。ヘイロー系の中でも、サンデーサイレンスの血を引いた馬たちが12頭と非常に多くなっています。こうした現象は決して特別なことではありません。中央競馬のG1においては、このようなケースが長年続いています。

    同じヘイロー系の種牡馬でも個性は当然あります。母系の血統の影響も無視はできません。しかし、それ以上に父がサンデーサイレンス系か否かという問題の方が大きい。サンデーサイレンス系以外で、G1で太刀打ちできているのはキングカメハメハ産駒ぐらいでしょうか。決して得意とは言えない、コースや距離はあるものの、G1の舞台へ上がるためには、サンデーサイレンスの血を持っていることが大きな条件となっています。

  • ■適距離編

    1 適距離はどのように出しているか

    適距離とは、その馬にとって力を存分に発揮できる距離のことです。例えば、1000〜1400m、1400〜1800m、1800〜2400mといった形で、評価を行います。守備範囲と考えられる距離、と言い換えることもできるでしょう。

    この点を考えるにあたり、まずは実際にレースに使われた距離があてはまると言えるでしょう。時期やレース番組の事情が絡んでくることはありますが、基本的には厩舎関係者がその馬にとってベストと考えている条件を使っているはずです。ゆったりした距離が向いていそうな馬を、1200mでデビューさせるケースは少ないはず。逆に短距離向きと考えいる馬を2000mでデビューさせるようなことはしないからです。

    まずは、日ごろから馬を見ている厩舎関係者の考えを尊重する。その上で、実際のレースっぷりを見て判断することになります。

    2 血統から見る適距離

    適距離を決定づける大きな要素として血統が挙げられます。将来性編で触れた15年の日本ダービー出走馬を見ればわかるように、サンデーサイレンス系の多くは1800〜2400mの距離を非常に得意としています。サンデーサイレンスの直仔であるディープインパクトやハーツクライ、アグネスタキオン、ネオユニヴァース、ステイゴールドらが現役時代に活躍した距離(表5参照)であり、子供たちにもその特徴は受け継がれています。

    ■表5 主な種牡馬の現役時代のG1勝ち

    馬名 G1勝ち
    ディープインパクト クラシック三冠、天皇賞(春)、有馬記念、JC、宝塚記念
    ハーツクライ 有馬記念、ドバイシーマクラシック
    アグネスタキオン 皐月賞
    ネオユニヴァース 皐月賞、日本ダービー
    ステイゴールド 香港ヴァーズ
    ダイワメジャー 皐月賞、天皇賞(秋)、マイルCS、安田記念
    サウスヴィグラス JBCスプリント
    クロフネ NHKマイルC、JCダート
    ゴールドアリュール JDD、ダービーGP、東京大賞典、フェブラリーS

    一方、1400m以下の短距離では最近、ダイワメジャーやサウスヴィグラス産駒が多くの勝ち鞍を挙げています。ダートではクロフネ産駒やゴールドアリュール産駒の活躍が目立ちます。やはりその種牡馬の現役時代の成績に通じるものがあります。現役時代、外国で走っていた種牡馬においても、適距離に関しては同じような考えで問題ないでしょう。しかし、馬場の適性は大きな課題となります。日本の軽くて時計が出る芝に対応できるかどうか。本来は芝向きの血統であっても、中央競馬ではダートでの戦いを余儀なくされるケースも少なくありません。

    3 レース中に見ているポイントは?

    適距離を含めて、その馬の個性を判断するには、やはり実際のレースっぷりを見ることが不可欠です。特に見るべきポイントは、スタート、道中の折り合い、勝負どころの反応・立ち回り、上がりの脚、になります。短距離やダートを主戦場としたい馬は、スタートやダッシュ力が鈍いと厳しい。道中の折り合いに難があるタイプだと、ペースの緩急がつきやすい長めの距離になると、苦しくなるでしょう。血統的には中長距離向きであっても、気性が前向きすぎる馬だと、適距離は短めにシフトします。

    そして最も大事な、勝負どころからゴールまでの攻防。一般的には残り600〜800mからゴールまでの動きになります。コース形態によって求められる能力はやや異なりますが、直線距離が短いローカルやコーナーを何回も回る長距離ならば、コーナーリングや立ち回りの技術が大事になります。直線距離が長い東京や阪神外回りコースであれば、いかに速い脚を長く使えるかという能力が問われることになります。

    新馬戦や未勝利戦の一戦だけですべてが把握できるわけではありませんが、その馬の個性を知る貴重な材料となります。キャリアを重ねることにより、欠点が解消したり、長所がさらに良くなったりすることもあります。そうした発見も、レースを見る楽しみであると言えるでしょう。